幻の超特急　成田新幹線騒動

建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画

新幹線は昭和39年（1964）日本国有鉄道（現・ＪＲ）が営業運転を開始した。その後、新幹線の予想以上の成功から昭和45年、地域経済活性化の起爆剤として、全国新幹線鉄道整備法の元、整備、建設を全国に広めていた。 翌年『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』が制定、東北新幹線、上越新幹線、成田新幹線の３つの新幹線の整備が決定した。

成田国際空港が計画された時から、この成田新幹線の話は出ていて、東京から遠い成田までの足として注目を集めていた。そこに『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』が発表され、いよいよ現実味を帯びてきていた。

成田新幹線のルートは、東京駅、千葉ニュータウン、成田空港駅の三つで構成で、東京駅・成田空港間を約30分で結ぶ計画であり、将来的に他の新幹線と繋がる予定だった。 成田新幹線は東京駅の地下を出発し、越中島から地上に出て地下鉄東西線と平行して走り、葛西、浦安、市川を通り、船橋はトンネルで抜け、千葉ニュータウンでは掘削した丘陵地帯を進み、印旛沼を高架で超え、成田線を交差し空港まで結ぶ計画であった。

強引な新幹線計画

時は、政府の強引な成田国際空港建設が原因で、地域住民や過激派を巻き込み衝突を繰り返していた時代、成田新幹線の実施計画が発表されるや否や、江戸川区では新幹線反対の決議をとり、絶対通さないと政府に強く申し入れていた。浦安でも昭和44年に開通した東西線の騒音が問題になっている矢先の成田新幹線計画で当然のごとく建設反対の声があがった。

住民感情も、通過する町の都市計画を無視した新幹線計画に建設反対の声があがるのは当然のことであった。このため、政府は各地に役人を派遣し説明会を開かせた。浦安で行われた説明会による成田新幹線計画はこうであった。

浦安を通る成田新幹線の線路は1.2キロで、地下鉄東西線から50メートルをあけて平行するように走り、幅は11.5メートルで高架は5メートルから9メートルの場所を通り住宅地を貫通する計画。

計画の白紙へ

浦安町議会からは、周辺住民、特に東西線と成田新幹線に挟まれた人々の生活はどうなるのか？せめて埋立地を通すような計画にならないか？などと声が上がったが、政府側はコースの変更はありえないと一点張だった。このため、各議員からは『地元に一言の話もなく、一方的に決定した本計画は絶対に承服できない。コースの変更の話し合い以外聞く耳を持たない』と激しく非難した。

成田新幹線計画は、地域住民すべてに知れ渡り、浦安や他でも各地で猛烈な反対運動が起こった。その後、オイルショックも手伝って、ついに成田新幹線計画は昭和58年中止に追い込まれ、昭和62年国鉄民営化に伴い計画自体が失効した。

今も残る成田新幹線の名残

昭和46年から58年まで行われた成田新幹線計画工事は各地に不自然な名残として残っている。 例えば南行徳から行徳にかけて東西線のすぐ北側にある遊歩道や、不必要に広い東京駅のＪＲ京葉線のコンコースはもともと、成田新幹線の東京駅の計画で作られたものだったあった。

東京駅から越中島までの地下路線部分はそのままＪＲ京葉線に使われたり、千葉ニュータウン付近の非自然な幅を掘削した北総線の路線はもともと成田新幹線の路線であったり、成田空港付近のトンネル部分は成田空港高速鉄道線に使われたりしている。