キティという怪物台風襲来

台風発生　近づくキティ台風

時は、昭和24年8月27日。日本のはるか南にある南鳥島付近で熱帯低気圧が発達、台風10号が発生した。当時アメリカの占領下にあったため、この台風はキティと名付けられた。この台風が4日後、関東北陸、そして浦安を襲う事になる。

8月30日、キティ台風は日本本土に向けてじわりじわりと北上中。浦安では東南の風が強くなり、東海一帯では暴風雨警報が発令されていた。浦安町役場では直ちに全職員を召集し、臨時の部署を設け、万全の手配をとった。秋山金魚場地先（現・市役所周辺）に消防団が土俵500俵を築き、旧江戸川堤防の危険箇所の補強など警戒態勢を整えていた。

8月31日、浦安では朝から、バケツをひっくり返したような豪雨が降り、嵐の前触れのような生暖かい風が吹いていた。夕方になると雨風が更に激しくなったので、役場職員は町内を回り、低地・耕地に住む住民に非難するよう警告した。子供や女性は暗くならないうちに避難を開始、漁師達は自分の船が流されないよう川岸に強く係留して歩いた。

小田原周辺に上陸　牙を剥くキティ台風

夜8時過ぎ、キティ台風はとうとう、小田原辺りに上陸した。台風は進行方向東側に被害が集中するため、浦安を含め首都圏は猛烈な 暴風雨に見舞われた。町では滝のような雨がたたきつけ、ゴーゴーとうなりをあげる暴風は家々の瓦を巻き上げた。ついには電線が切れ電気が消えてしまった。

高潮、堤防の決壊、停電、火災と恐怖が連鎖していく

運悪く、台風上陸と共に浦安では満潮をむかえ、潮位は大正時代の大津波（堀江村などを全滅させた津波）以来の最高値を観測していた。波浪の高さは2メートルを超え、上潮にのった高潮が沿岸部を襲った。

当時の堤防は耐え切れるわけなく、14箇所に及び決壊。その幅は900メートルに及び濁流が容赦なく町を飲み込んだ。生き物のように押し寄せる濁流は田畑、民家を一瞬に押しつぶしてしまった。勢いが消えない濁流は境川の水まで増水させ、付近の家々は水浸しになってしまった。

日付が変わる頃になると、雨風は弱まったが、停電のため町内は暗闇のままであった。すると突然、猫実から火の手が上がった。停電のため、ろうそくを使っていた住居からの失火だった。 大洪水に火災と、人々の恐怖は最頂点に達していた。

深刻な被害

一夜明け、被害状況が見えてきた。町全体に被害が及んでいたが、特に酷かったのは、堀江・猫実の東側部分であった。住居や海苔製造所などが全壊し、その光景は悲惨であった。

キティ台風による被害は、床上浸水家屋2419戸、床下浸水家屋501戸に達し、倒壊あるいは一部倒壊は数百戸に及んだ。 着の身着のままで避難してきた住民も、自分の家に戻り復旧作業がはじまった。終戦間もなく貧困が著しかった人々に、追い討ちをかけるように伝染病が蔓延し何人も倒れていった。

念願のスーパー堤防

キティ台風後、浦安の堤防強化は急務になり、3年後念願のスーパー堤防が完成した。戦後の貧困と当時の金銭で4億（町費の10倍）もの損害を出したキティ台風後の不況に負けないようと、浦安町商工会が発足、浦安は力強く歩きだしたのであった。

その後、このスーパー堤防のお陰で現在まで目立った水害は起きていないが、最近、老朽化が目立ち初め、補修工事を行っている。